風が吹けば桶屋が儲かる
私が大学の歯科臨床研究所で2年間の研修を終えてみて、自分には矯正歯科臨床の技術が必要だと感じ、矯正歯科で勉強をしようと決心したときに、インストラ クターの先生から言われた言葉が、「矯正治療で顎関節症患者をつくるなよ。」でした。その当時はまだ、顎関節症という疾患についてはよくわかっておらず、 矯正治療が原因であるという説も巷に流れていたためでした。早速、矯正歯科の先輩の先生に顎関節症について質問したところ、答えに窮していたことをよく覚 えています。その後、私が矯正歯科診療所に勤務してから2年ほどたったとき、アメリカ矯正歯科学会で、矯正治療と顎関節症の関連性について大規模なリサー チが行われ、矯正治療と顎関節症との因果関係は否定されました。
簡単に言うと、アメリカでは矯正治療を行うのは10歳代の子供たちに多かったこと から、10代の矯正治療した群と矯正治療しなかった群の子供たちにおける顎関節症の発症率を調べたところ、差がなかったことから、顎関節症発症に矯正治療の 有無は関係ないということがわかったのです。その後の疫学研究で、顎関節症という疾患は10歳代に発症し、その発症率は20−30歳代でピークになりその後は 徐々に低下していくことがわかったのです。すなわち、偶然にも顎関節症の発症時期が、矯正治療を行うことの最も多い思春期と一致していたために、このような 誤解が生まれたのです。
このように今の医療で信じられていることが、将来、新知見によって変わる可能性がことがあるということを、私たち臨床家は 肝に銘じておく必要があるのです。このことについては、ケンタッキー大学で顎顔面痛の研究、診療をされているオケソン教授から、こんなお話をお聞きまし た。

information.jpg現代の世の中は、このインターネットに代表されるように、多くの情報があふれています。その情報を我々歯科医師はどの様に考えて整理していくべきなのでしょうか?
我々の持つ情報は十分ではありませんし、また持っている情報も全てが真実でないことをまず認識することが必要です。その上で、情報を次の3つに大別して考えます。

1)ハードコア インフォメーション
   絶対的に不変な真実とみなされるもの。例)地球は太陽の周りを回っている。

2)ソフトコア インフォメーション
   研究などの結果によって得られる情報。これは新たな情報で変わる可能性がある。

3)フリンジ インフォメーション
   経験によって得られるものや、科学的裏付けの不十分な情報。

  診療の基礎となるのは、ハードコア、真実の部分です。それが十分でなければ、ソフトコアの部分へ、それでも不十分ならフリンジの部分の情報を使います。今 自分が持っている情報がどのコアの部分に属するのか、それを常に考え、吟味して臨床に適用していくことが、EBM(Evidenced Based Medicine:科学的根拠に基づく医療)の実践ということになります。

より質の高い治療を目指して、
科学的根拠に基づいた予知性の高い治療を行う。
これが私たちの基本姿勢です。