
あなたは美術館で1枚の人物画を見ているとする。ただその絵を眺めているのと、その絵に描かれている人物やその絵の作者がどういう人で、どんな時代に生き、どんな人生を送ったのかを知って見るのとでは、受ける印象がかなり変わってくるのではないだろうか?
同様に、テレビ東京の長寿番組にお宝何でも鑑定団という番組があるが、島田紳介と石坂浩二のトークもさることながら、鑑定されるお宝にまつわる解説を聞くと、一見何の変哲もないガラクタのような鑑定品であっても、その価値を何倍にも感じさせ、評価価格に期待を持たせてくれるのが面白くて、つい見てしまう。このように物であっても、それにまつわる物語を聞くことは、私たちに親近感を感じさせ、それまでとは違った印象や見方を与えることになる。
医療現場におけるナラティブは、医療者と患者との距離を縮め、治療や病の治癒に対して、きわめて大きな影響力をもつ。それは従来の近代医学の科学的方法によっては到達しえない結果をもたらすことになるのである。
私はカウンセリングの勉強を通じて、物語の力の偉大さを目の当たりにした。クライアントが自己の物語を語ることで、人格的に成長して行く過程をともに体験することは、私の心を激しく揺さぶった。相手の話を聴くということは、相手の世界の中で自分もともに生きることであるから、当然そうなるのではある。そうして人が苦悩から立ち直っていく過程に私は深い感動をおぼえたのである。これを私の歯科医療にも取り入れたい。そんな思いが今回の連載「歯科臨床におけるナラティブ・ベイスド・メディスンの実践」を書くきっかけになった。
先日、その別刷りがようやく出来上がり。さっそくお世話になった方々にお送りさせていただいた。そのきっかけを与えてくださった先生のおひとりに日野原重明先生がいらっしゃった。
先生の講義を上智にいっているときに、2回ほどお話をうかがう機会があったが、そのとき先生は、学問とテクノロジーをどのように患者さんに応用していくのか、どういう表現でどのようなタイミングで伝えていくのか、そういったお話をされた。ちょうどカウンセリングを学んでいた時だけに、それが非常に心に残ったのである。昨日、予期せぬことに先生からお葉書を頂いた。お忙しい先生だから、見ず知らずの私の論文など、とても読んでいただけるとは思っていなかったが、ご返事までいただき、さすがに立派な先生は違うなと心から尊敬してしまった。
(前略 御高著NBMの歯科への適用を興味深く読みました。御礼迄 11月10日 日野原 重明)