歯痛、顎関節症と誤診しやすい疾患について
私たち歯科医師にとって、歯痛や顎関節症は日々取り扱っている疾患であり、それを治療し痛みを取り除くことが仕事です。しかしながら、患者さんの中には歯痛や顎関節症以外のことが原因で痛みをともない来院する方がいらっしゃいます。大事なことは、痛みを取り除こうと思うあまりに、鑑別診断をせずに、当てずっぽうに神経や歯を抜いてしまったり、歯を削ってしまったりしないことです。
今回は、そのような誤診を起こしやすい疾患について、口腔顔面痛外来をされている井川雅子先生が歯科医師会雑誌の2007年12月号に書かれていたものを参考にまとめてみました。

A)群発頭痛:
  1. 1000人に一人の割合。5:1で男性に多い。
  2. 激烈な顔面痛発作。
    発作は規則的で、1−2年に1度約1ヶ月間決まった時間に毎日おこる。
  3. 眼窩を中心に、側頭部、上顎最後方臼歯にかけて痛みが生じる。
  4. 夜間睡眠中におきたり、飲酒によって必発する。
  5. 神経内科にて薬物療法。

B)側頭動脈炎(巨細胞性動脈炎):
  1. 高齢者(少なくとも50歳以上)で始まった新たな表在性の疼痛。
  2. 発熱、全身倦怠感、食欲不振、体重減少などの全身症状の存在。
  3. 側頭部の発赤腫脹、圧痛、浅側頭動脈の怒張、索状肥厚。
  4. 神経内科、リウマチ内科にてステロイド療法が有効。

C)三叉神経痛:
  1. 1-1.5万人に一人の割合。
  2. 秒単位の電撃様疼痛。
  3. トリガーゾーンの存在。
  4. 発作と発作の間には全く痛みがない。
  5. 神経内科、口腔外科にてテグレトール投与が有効。
  6. 頭蓋内で血管などが三叉神経の神経根を圧迫するためにおこる。

D)舌咽神経痛:
  1. 瞬間的で激烈な一過性穿刺痛。
  2. 舌咽神経の支配領域(舌後方1/3、咽頭部、下顎角深部、耳の奥)の痛み。
  3. 通片側性で、口を大きく開けたり、食事をしたり、会話などで痛みが起こるため、顎関節症とまちがえられやすい。
  4. 神経内科にてテグレトール投与が有効。
  5. 頭蓋内で血管などが舌咽神経の神経根を圧迫するためにおこる。

E)鎮痛剤乱用疼痛:
    頭痛持ちの方が、痛みを恐れるあまり鎮痛剤を服用しすぎると、疼痛抑制系の神経がかく乱され、悪化して頭痛が毎日生じるようになります。
    この場合は、頭痛専門医のもとで鎮痛剤の服用中止を行う必要があります。

F)急性上顎同炎:
  1. 上顎小臼歯から大臼歯部にかけての自発痛。
    上顎臼歯部の神経は上顎洞粘膜内をとおって歯に分布しているため、上顎洞内に炎症が起きると歯が痛く感じられる。
  2. 明瞭な打診痛。
    上顎臼歯部全体に打診痛が出ることが多い。
  3. 頬部圧痛。
    頬骨の下あたりを押すと痛みがある。
  4. 風邪を引いていて、患側の鼻が詰まっていた、もしくは現在もそうである。
  5. 抗菌剤の投与が有効。

G)非定型歯痛:
    エックス線写真などでは明らかな原因が認められない、現時点では原因不明の歯痛です。歯髄炎や根尖性歯周炎、歯根破折などと酷似した臨床像を呈しますが、歯原生の痛みではないので、抜髄や抜歯などの歯科治療は全く効果がありません。
    非定型歯痛の7割はささいな歯科治療をきっかけとして起こります。背景に心理社会的要因(ストレス)があり、治療によって何かのトリガーが引かれるのではないかと考えられています。
  1. 有病率は高く、子供を除いてどの年齢にも起こりうるが、40−50代の女性に多い。
  2. 麻酔に対する反応は不明瞭。
  3. 大小臼歯部に多い(上顎>下顎)。
  4. 三環系抗うつ薬が有効。

    現在の保険医療制度では、歯科医が三環系抗うつ薬を出すことが認められていないため、精神科医との連携が必要となっています。欧米では、慢性化した顎関節症患者の疼痛管理にも三環系抗うつ薬が使われており、歯科医師の処方が可能になることを望みたい。
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